インドの古典舞踊

■インド舞踊 Indian Dance

インド舞踊は4000年もの歴史を誇る世界最古の民族舞踊です。しかも単なる踊りではなくかつては人と神との交流手段として発達し、感情や精神を微妙に表現し得る優れた踊り手と「ヴェダ」という讃歌によってのみ神も応えて舞うと信じられてきました。

紀元前1世紀ごろには、音楽と舞踊の経典バーラタの「ナティヤ・シャストラ」が 書かれています。バーラタはインドの古典舞踊を体系づけ、詳細に記したものです。が、その影響は今日の現代舞踊の中に見られるだけでなく、他のアジア諸国に伝わる民族舞嬬の原型となっています。なかでも、タイ、ビルマ、インドネシア、などではそれが最も顕著です。

西洋のダンスとは違い 踊りが神との意志交流を図る唯一の手段だったため一挙手一動作に意味があり、わずかな目の動きにも魂が込められています。このようにインド舞踊は宗教と深いかかわりがあったため、踊り手は寺院に直属していました。南インドのバラタナティヤムを踊る人は「デーヴァダーシー」とよばれていますが、これは神様の召使という意味です。オディシイ・ダンスの「マハリ」やマニプリ・ダンスの「マイビ」も子供のころから寺院に仕え、神聖な課業に厳格に生きた人たちです。

■インド古典舞踊

インドの古典舞踊にはその生まれた地域の別から、4つの大流派があります。
バラタナティヤム(南インド、タミルナードウ州発祥)
カタカリ(南西インド、ケララ州発祥の舞踊劇)
カタック(北インド、マトゥーラ・ブリンダバン地方)
マニプリ(北東インド、マニプール)
その他、クチプディ(アンドラ・ブラディシュ州) オディシイ(インド東海岸オリッサ州) モヒニアッタム(ケララ州)
それぞれ大きな特徴があります。

■シバの踊り Dance of Shiva

インド古典舞踊で最高の出し物はシバ神をイメージする踊りです。シバは破壊と創造を司る神様ですが、同時に「舞踊の神(ナティシャ)」「舞踊の王(ナタラージャ)」とも呼ばれています。それは心臓を中心に四方に手足を伸ばしたシバのポーズが「卍(まんじ)」の形を成し、宇宙を動かす力をあらわしており、インド舞踊そのものをシンボライズしているからです。

4本の手とそれに巻きついたヘビ、悪魔を踏みつけ片方は高く上げた足、渦巻状のヘアースタイル、太陽と月を表す両目、そして宝石飾りにいたるまで重要な意味がこめられています。従って、これを舞う時はシバの像が示している総てを表現しなくてはなりません。

■古代美術の中の舞踊

モヘンジョダロの遺跡から青銅の踊り子像が発見されたのを始めとし、中央インド、チャンバル渓谷のパチマリ洞窟では群集の様子が精巧に描かれた壁画が発見されています。この他各地の寺院、洞窟の浮彫などにも踊り子が多く残っていて、古代インド舞踊の発達が読み取れます。

建築物も踊り子像で飾られており、特にサンチーとバールフットの塔門や欄楯、イミーグ、アジャンタ、エローラの壁画、チダンバラムやカジュラホの彫像、ハレビット、ベルールの寺院の壁にはアプサラ(天女像)が生き生きと描かれています。こうして数千年もの間続いてきたインド舞踊は、複雑で微妙な表現方法を持つ世界で最もバラエティに富んだ踊り。常に、新しい型が生まれていますが、踊りの哲学だけは変わることなく伝えられてきました。